183日ルールに関連した異なる質問を頂きました。
分かっているようで、実は誤解しやすい183日ルール。
ここでは、183日ルールと、頂いた質問を整理し、皆さんにわかりやすくお伝えいたします。
183日ルールとは?
まずは、183日ルールは実際どんな場面で使われるのかを整理してみましょう。
- 海外出張の際に出張国で労働した場合、出張国で課税がされるか否か。
- 非居住国である、シンガポールで確定申告する必要があるか否か。
- 日本の居住者判定として(本当に使っているのか)。
海外出張し、現地で就労した場合
1番に関して、具体的に説明していきます。
例えば、あなたの会社が海外(中国)に新しい工場を設立。
あなたは工場立ち上げのため、現地で労働をする必要が生じました。
そんな場合、中国に税金を収めなければいけないのでしょうか?
原則として、海外勤務における賃金は、
日本国内から日本国内の銀行口座に振り込まれたとしても、
勤務をした場所(外国)で課税されることになります。
そうなると、
もし数日間の海外出張であっても、
その間の給与は海外で課税される事になり、
事務手続き等で多くの手間がかかってしまいます。
そのような煩雑の作業を避けるため、
多くの国々では、ある一定の期間と条件を設けています。
その期間と条件をクリアした場合は、海外での課税が免除されます。
その一定の期間を、183日以下と定めた国が多いため、
日本では、これを183日ルールと呼ぶようになったようです。
シンガポールで納税義務が発生する場合
さて次は、いつも間違った解釈が多い2番に関してです。
シンガポールと日本との間には租税条約が結ばれています。
租税条約とは、居住地国と源泉地国の両方から課税されることを回避したり、
脱税を防止したりするために、二国間で結ばれている取り決めです。
シンガポールで就労許可を取得し、シンガポールの法人から給与を受け取っている場合は、
シンガポールでの滞在日数に関わらず、シンガポールでの納税の義務は生じます。
ここで183日ルールが関係するのは、
シンガポールを居住国としていない外国人に適用されるルールとなります。
シンガポールの場合、外国人がシンガポールに短期に滞在し、
シンガポールで報酬を受けた場合の納税の義務とその納税額について、何段階かに分けて規定しています。
183日以上滞在した場合は、たとえ非居住のが異国人であっても居住者と同率の税率で納税しなければいけません。
詳しくは、IRAS(内国歳入庁)の外国人労働者の場合の納税義務のページをご覧下さい
183日未満の滞在であれば、日本(シンガポール)の非居住者なのか
さて、最後の項目ですが、一番誤解が多いのは、この解釈ではないでしょうか。
2番でもご説明したように、シンガポールでは当地の就労許可を取得し、当地の会社から給与が支給されていれば、居住者と見なされ、当地での納税の義務が乗じます。
海外出張が多く、一年の半分以上を海外で過ごしていてもです。
となると、「滞在日数が183日間未満だと非居住者になる。」というのは当てはまりませんね。
シンガポールの183日ルールは、納税に対して適応しているもので、決して、居住・非居住の判断に使われるものではありません。
実は、世界中の国が183日ルールを居住者判定として使っているわけでは無いのです。
オーストラリアの法律では、日数を基準として、
居住者か非居住者であるかの判定をしているようです。
しかし、日本でも税法上では、居住者の判定に183日ルールを使うことはありませんし、
米国でも、居住者の判定に183日ルールを使うことはありません。
一体、誰が183日を居住判定のルールだと言い出したのでしょう?
日本では、居住地の判定は日数だけでは無く、住まいがどこにあるのか、どこで主に働いているか、
また、居住地と定めている国で配偶者と共に生活しているか等々、総合的に判定されます。
日本での滞在が183日未満だから、日本の非居住者となり、
「日本での納税義務は生じない」という考えは、かなり危険ですね。
頂いた質問のご紹介です。
それでは、ここからは当社に頂いた、183日ルールに関する質問についてのご紹介と、
それらの質問への解説をさせていただきます。
Aさんからのご質問
シンガポール滞在が1暦において183日以上の個人の場合、
シンガポール国外源泉所得は0という認識ですが間違っていますか?
頂いた質問がこれだけだったので、Aさんの質問の意図は分かりませんが、
当社からの返答は、
シンガポールでは、183日の計算には暦年を使わない
となるでしょうか。
最初に暦年と言う概念がからご説明しますね。
すべての国が、暦年を183日ルールとして使っているわけではありません。
ちなみに暦年とは、暦で定めた1年。
1月1日から12月31日のことを指します。
暦年を使っている主な国として、韓国や中国、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどが挙げられます。
米国やシンガポールは「任意の12ヶ月」を使用しています。
「任意の12ヶ月」とは、その人が現地入りをした日を開始日とした183日です。
ただし、多分Aさんはそんな返答を期待されていたのではないと思うので、もう少しこの質問の意図を掘り下げていこうと思います。
もしかしたら、Aさんは、
シンガポールに183日以上滞在することによって、
日本での納税義務を回避しようとしているのでしょうか?
「日本に居住していた場合は課税対象なので、
シンガポール住居を移し、非課税の状況を作りたい」
というのが、Aさんの希望だと仮定すると、
シンガポール国外源泉所得というのは、
日本で得た所得のことを指すと推測されます。
日本国外で得た所得が、日本で課税対象になるか否かは滞在している日数ではなく、
Aさんの現在、そしてシンガポール移住後の状況が考慮されます。
ですので、一概に
「シンガポールに183日以上滞在した場合、日本への納税義務はなくなる」
と解釈することはできません。
183日ルールを非居住者判定だと思いこんでしまったために、このような質問をされたのでしょう。
非居住者=一年の半分以上を海外で過ごしている人
という定義は、あくまでも目安で、この事実が納税義務の有無を判断する指標とはなりません。
ご注意下さい。
では、もう一つのご質問を取り上げます。
Bさんからのご質問
シンガポールへの法人設立を検討中ですが、シンガポールには183日滞在することができません。
シンガポールの就労ビザを取得することができるでしょうか?
こちらのご質問は、税金の問題ではなく、現在、他国での事業に重きおいているため、
シンガポールに1年の半分以上滞在することができないけれど、それでも就労許可は取得できるのかというご質問です。
シンガポール滞在が183日以下だと、非居住者となってしまい、
シンガポールの就労ビザの取得ができないのではと心配されているようです。
こちらでも、なぜかBさんは183日=居住・非居住の判定に使っています。
シンガポールでは就労許可取得の条件として、183日シンガポールに滞在することを義務付けてはいません。
就労許可取得条件と183日ルールは、全く切り離して考える必要があります。
そもそも、就労許可を取得した人が皆、一年のうち183日間シンガポールに留まる必要があるとしたら、シンガポールのビジネス機能は麻痺してしまいそうです。
シンガポールに法人を設立する外国企業の殆どが、この地をハブとして捉えています。
なので、営業スタッフの海外出張は日常茶飯事。
週末のみ、シンガポールで暮らしている駐在員の方だっています。
183日=居住・非居住の判定と間違った考え以外にも、
シンガポールでは海外出張は、日本の国内出張と同程度という感覚がわからないと、
きっとこのような疑問が生じて来るのでしょう。
当社から、こちらの質問への回答は、
「シンガポールに、1年を通じ183日滞在しなくても、就労許可は取得できます。」
となります。
間違った解釈をしないために
AさんBさんともに多分ご自身で、一生懸命情報を収集されたのだと思います。
ただ、その情報収集が断片的だった。
あるいは自分の立場とそぐわないものを、そのまま取り入れて自分なりの解釈をしてしまったため、
このような質問になってしまったのでしょう。
ネットが発達した現在では、それまでごく一部の人しか知ることができなかった情報も簡単に入手することができます。
専門家にその都度、問い合わせすることもなく、各自で検索することが可能になりました。
ただ、その情報が本当に正しいものなのか、あるいは自分の立場に即したものなのかを判断するのは、けっして簡単ではありません。
自分の都合の良いように解釈をして、回り道をしないためには、情報源の精査が大切になってきます。
もし、あなたがシンガポールの法人設立と移住を真剣にご計画中であれば、はじめから専門家へアドバイスを求める事をオススメします。その方が、早くて正確な情報を得ることができます。
ただし、質問する際に注意しなければならないのは、一般的な質問の仕方ではなく、
ご自身の現在の状況、そしてご自身が望んでいることを正確に先方に伝える事です。
漠然とした質問には、漠然とした返答しか帰ってきません。
正確な情報を収集しようと思ったら、質問方法もきちんと精査すべきです。
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